かわいそうな熱帯魚たち
2012/02/20
実家の母が病気になり自宅で療養することになった。
新年に帰省すると、母のベッドから見える位置に、今まで見かけなかった熱帯魚の水槽があった。
母の療養生活が退屈しないように、
父が熱帯魚を飼うことを思いついたのだろう。
今まで熱帯魚を飼う話など一度もしたこともなかったのに、
いきなり水槽が置かれていたので私は少し驚いた。
犬や猫と違って、世話も簡単だし負担が少ないと思ったのだろうか。
父は動けない母の変わりにいそいそと水槽の水を替えたり、
熱帯魚にエサを与えたりしていた。
母は色鮮やかな熱帯魚たちが
水槽の中で泳ぐ姿を見て喜んでいるようだったが、寂しげにも見えた。
自分はもうあの熱帯魚たちのように自由に動けない。
見つめる母の目はそう語っているようにも思えた。
父と一緒に買い物に行った帰りに、熱帯魚店に行った。
手頃な価格で熱帯魚が売られているので、
父は好きな熱帯魚を選んでいいと言った。
私は青く光る小さなネオンテトラが目についたので、
3匹セットにして購入することにした。
母は私が買ってきたネオンテトラを見て、
かわいい、私らしいと喜んでくれた。
夜に部屋の明かりを暗くして熱帯魚の水槽を見ると、
泳いでいる魚もいれば、静止して動かない魚もいた。
母と私は無言で水槽を見つめ、おそらくあと僅かしかないであろう
共に過ごせる時間をいとおしんだ。
水槽の中の熱帯魚はなぜか長生きしなかった。
まるで母の寿命を延ばすのと引き換えるかのように、
次々と死んでいく。
桜の開花を目前した3月の終わりに、
母は帰らぬ人となった。
水槽の中の熱帯魚は一匹もいなかった。